TFJC | Fawlty Towers | The Builders

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  第1シリーズ第2話  1975年9月26日 BBC2

 

 バジル・フォルティ          ジョン・クリーズ
 シビル・フォルティ  プルネラ・スケールズ
 マニュエル  アンドリュー・サックス
 ポリー  コニー・ブース
 ゴーウェン少佐  バラード・バークリー
 ミス・ティッブス  ジリー・フラワー
 ミス・ギャツビー  レネー・ロバーツ
 オライリー  デイヴィッド・ケリー
 ラーフィ  マイケル・クローニン
 カー  バーニー・ドーマン
 スタッブス  ジェームス・アップルビー
 配達人  ジョージ・リー

 
フォルティ・タワーズのロビー。カウンターでポリーが手紙を整理している。客が近づいてくる。

 すみません、キーを忘れてました。(ポリーに渡して去る)

ポリー あら、ありがとうございます。(電話が鳴る)はい、フォルティ・タワーズでございます。はいそうです。 …いえ、今日の午後なら大丈夫ですが? エルウッド街の16番地です。そう16番地。ありがとうございます。お待ちしてます。

電話を切る。スーツケースを2つ下げたバジルが階段を下りてくる。シビルが後ろに続いている。

バジル これは外に出しておくよ。

そのまま外に出ていく。シビルがポリーにメモを渡す。

シビル これが連絡先ね。スタッブスさんが来たとき何かあったら、すぐに電話をちょうだい。ただ悪いけどどうしても必要があったらにしてね、なにしろオードリーの子宮の手術以来のお休みだから。

ポリー ご心配には及びません。それからさっき庭の人形の置物のことで電話がありました。

シビル なんて言って?

ポリー 今日の午後に配達されるそうです。

シビル そう、よかった。(つぶやく)ところでゴルフシューズはどこかしら… (入ってきた少佐に)おはようございます。

少佐 まったくありがとう。

シビル (ポリーに)夕食のことお客様はご存知なの?

ポリー お知らせはしてあります。

シビル だけど明日の朝食はひとりで大丈夫?

ポリー ええ、少佐とあのお二人だけですから。

シビル ところで私のゴルフシューズを見なかった?

シビル探しながら去り、玄関横のドアから私室に入る。マニュエル、英語を練習しながら食堂から入ってくる。

マニュエル 少々お待ちください。ただいまおかんじょ。おかんじょもちしま… します。

ポリー マニュエル、『お勘定お持ちします。』

マニュエル おかんじょうもちおします?

ポリー お持ち、します。

マニュエル お持ちお持ち、お持ちします。

ポリー そうそう。

マニュエル (嬉しそうに)おかんじょうお持ちします。

シビルが私室からゴルフシューズを手に出てくる。

シビル マニュエル、これを荷物に入れておいてくれる?

シビル靴をマニュエルに渡してオフィスに去る。マニュエル当惑している。バジルが戻ってくる。

バジル マニュエルいいか、出かけている間に…

マニュエル (嬉しそうに)少々お待ち下さい。ただ今おかんじょうお持ちします。

バジル なに?

マニュエル おかんじょうお持ちします。ね?

バジル なんだと?

マニュエル 聞いてください。今日のローストは牛肉、工事肉、 それとセーソージございます。

バジル 何を言ってる?

マニュエル バンハーグもあります。

バジル 黙れ。

マニュエル ケ?

バジル 黙れ!

マニュエル ああ「だまれ」ね、わかりますわかります。

バジル なら黙ってろ。

マニュエル はいだまります。

バジル (ゆっくりと)いいか、我々が出かけている間…

マニュエル 「だまれ」わかる…

バジル 黙ってろっ! いいか出かけている間、窓を磨いておくんだ。(マニュエル頷くがわかっていない)あーつまり、Quando nosotros somos ... スペイン語でなんだ、「出かける」は?

マニュエル ケ?

バジル 「出かける」!

マニュエル 出かけるのね、はい。(玄関に行こうとする)

バジル 違うお前の話じゃない我々だ!(捕まえる)窓を磨くんだ!

バジル食堂を指差す。

マニュエル みかぐ?

バジル そうじゃない窓を… (ハンカチをマニュエルに持たせ磨く動作をさせる) …磨く!

マニュエル (磨く動作をぼんやり繰り返しながら)みがく?

バジル そうだ窓を磨け! ほら! (マニュエルを持ち上げ横抱きにして食堂に運び込む。少佐のテーブルを通りすぎる)

少佐 おはようフォルティ。

バジル おはようございます。(マニュエルを窓の前に下ろす。磨かせながら)窓! 磨く!

マニュエルそのまま磨きつづける。バジル食堂を出ようとするがミス・ティッブスとミス・ギャツビーが楽しそうに立ちふさがる。

ミス・ティブス おはようフォルティさん。

バジル これはお二人お揃いで。おはようございます。

ミス・ティブス 今ウルスラとふたりで噂してたのよ。フォルティさんって悪い人ね。ね?

バジル (つぶやく)何だそれは… (嬉しいふりをして)そうでしょうか?

ミス・ティブス わたし達を放っといて週末お留守になさるなんて。

ミス・ギャツビー いけませんわねえ。

バジル まったくです。

ミス・ティブス でもどちらへお出かけかもうばれておりましてよ。

ミス・ギャツビー 奥様とお二人で!

バジル ちょっとペイントンに行くだけですよ。

ミス・ティブス (バジルの手の甲を叩きながら)素敵! どうぞごゆっくり、たまにはお仕事を忘れて楽しくお過ごしになるといいわ。

バジル 家内も一緒でしてねえ。

ミス・ギャツビー どうぞご心配なさらないでね。

バジル ああそういえば、午後から工事が入ることをご存知でしょうね?

ミス・ティブス ええ。

バジル ですからご夕食はグレン・イーグルスでお済ませになってくださいね? ご用はポリーが承ります。

ミス・ティブス わかりました。では息抜きなさってらして。

ミス・ギャツビー それからおいたをしちゃ駄目よ。許さないから。

バジル 呼吸なんかはどうでしょうかな。(なんとか二人の手をすり抜ける)ではこれにて遁走します。

ミス・ティブス 遁走?

ミス・ギャツビー そうよアビサ、とんとんとん。

ミス・ティブス そう遁走、とんとん、とんとん…

バジル、ロビーに戻りカウンター内に入ったときポリーのスケッチブックが置いてあるのを見つける。眺めているとポリーがオフィスから出てくる。

バジル ポリー、こういう妙な絵をそこらに放り出しておかないようお願いしたはずだ… しかし訊いていいかな、これは何なんだ?

ポリー ただのスケッチです。(手を伸ばす)

バジル (取られないように持ち上げる)だからこれは何の絵なんだ、一体何を描こうとした? ゴミ溜めか?

ポリー 返してもらえます?

バジル ここにどうしてネクタイがついている?

ポリー まだ完成してないんです。

バジル それは何よりだ。しかしスープ缶とぼろ車とゴミ箱にマットレスに掃除機がネクタイを締めている、つまりこれは結局何のつもりだ?

ポリー たいしたものではないですわ。返してくださいませんか?

バジル (しぶしぶ返しながら)まったく気に障る。売れるのか?

ポリー ええ、おかげさまで肖像画をいくつか買っていただきました。

バジル はっ!

ポリー (小声で)これはどうなるかわかりませんけど。

バジル そこのホッチキスを取ってくれないか。しかし、何のためにそんなものを描く?

ポリー 何のためでもありません。

バジル 何のためでもない?

ポリー 人はなにかのために生きるのでしょうか?

バジル 斬新な質問だ。人はただ捕われてるだけだ。それからホッチキスを取ってくれ。

ポリー (日付スタンプを渡し)いちいち絡まないで下さいませんか。

バジル ホッチキスだってば!

ポリー すみません!(ホッチキスを渡す)

バジル 具合でも悪いのか?

ポリー ゆうべよく眠れなかったんです。

バジル 留守を頼まれてるってことを忘れるなよ。

電話が鳴る。シビルがオフィスから出てきて受話器を取る。

ポリー ご迷惑はおかけしないつもりです。

バジル よろしい! では全然お疲れではないわけだね?

シビル (電話に)フォルティ・タワーズでございます… (バジルに)バジル?

バジル わたしに?

シビル (不審げに)オライリーさんよ。

バジル (受話器を受け取りながら)それは妙だな。きっと庭の壁のことだろう。もしもしオライリーさん? まったくあの壁はいつ仕上げて下さるんですか? 置きっぱなしのレンガの山が邪魔で仕方ないんですよ、いいかげんにしてくだ… (シビルとポリーが去り聞こえていないのを確認して)ちょっと、電話するなと言ったでしょう? 家内はドア工事をするのはスタッブスだと思っているんですよ。 …何時ごろです? …4時、なるほど… いやそうはしないで、何かあったらポリーに電話するんです、おわかりですね? (シビルが戻ってくるのを見て)あーそうですか来週必ずですね。よろしい、それでようやく解決ですな、もうハドリアヌスの城壁なみに待たされましたからね。ハドリアヌスです。ローマ皇帝のハドリ、いえ忘れてください。来週ご説明します。それでは失礼。(満足そうに受話器を置く)

シビル (たいして感動せず)信じてるわけじゃないでしょう? 4か月もあのまんまなのに、今度はやるっていうの?

バジル ああ、今回は本気みたいだね。

シビル 最初からスタッブスさんに頼んでおけば… 

バジル 素早くすごい請求書を送りつけられてただろうな。

シビル いいじゃないそれだけの仕事をしてくれるんだから! オライリーの職人なんて、安いだけの能無しよ。

バジル そんなこと言うもんじゃないよ。

シビル スタッブスさんは確かに少し高いけど…

バジル 少しだって?

シビル ええ少しはね。だけどそのぶん仕事は信頼できるし、それにやると言ったら本当にやってくれるでしょう? じっくり比べてみなさい。何時に来るんですって?

バジル ええと、確か4時だと言ってたよ。

シビル そのジャケットを着ていくつもり?

バジル そのつもりだよ。お気遣いありがとう。

シビル あなたって本当になんにもわかってないのね。

バジル そちらこそおわかりでないようだが、これはスタイルというものなんだ。

シビル (友人の車がやって来たのを見て)こっちよー! バジル、車が来たわよ。

バジル なんて素晴らしい。

シビル この週末、どうかしばらく人に絡まないでいてちょうだいね。さて、忘れ物はないかしら?

バジル (小声で)ハンドバッグ、カイザーナックル、飛び出しナイフ…

シビル ほら早く、ぐずぐずしないで。(外に出ていく)

バジル 今行くってば! …ポリー! ちょっと!

ポリー (オフィスから出てきて)はい?

バジル いいか工事は4時に始まる、やらせることはわかってるな?

ポリー キッチンのドアを取りつけるんでしたね。(食堂の右側の壁を指差す)

バジル 階段の下のところにな。それと?

ポリー それと?

バジル あの私室の入り口をふさぐ。

ポリー ふさいでしまうんですか?

バジル そう、ふさいでしまう。それでようやく平民どもに覗きこまれなくなるわけだ、わかるだろう? わたしの帽子を見たか?

ポリー もうかぶっていらっしゃ…

バジル (思い出したように)ああそれからもうひとつ。工事で来るのはスタッブスじゃなくてオライリーのとこの人たちだからよろしく。さて帽子はどこだ?(カウンターから出る)

ポリー なんですって? オライリーさん?

バジル ああそうだ。

ポリー 奥様はご存知なんですか?

バジル さあね、たぶん知らないだろうしわたしも教えるつもりはない。どうもあの二人はうまく行かないようだから。

ポリー ですが…

バジル スタッブスは黴菌にやられたというのでちょっと予定を変更した。

ポリー 奥様はオライリーさんにはもう2度と頼まないっておっしゃってたじゃないですか。私、責任を持ちきれません。

バジル 腕のいい職人を選んでよこしてくれるそうだから、ただ仕上がりを確認してくれればいい。何かあったら電話してくれ。ではよい週末を。

ポリー もし訊かれたら、本当のことを言いますよ。

バジル なんてありがたいお言葉だ。わたしは嬉しいよポリー。忠実という言葉に忠実な人間としてはな。

バジル去る。マニュエルが入ってきて、カウンターの上に置きっぱなしのゴルフシューズのことを思い出し持って出ようとする。

マニュエル 忘れた!

ポリー 放っておきなさい。

マニュエル (ポリーが壁に貼ったスケッチを見て)あーあ!それフォルティさん!

ポリー しっ!窓を磨いてちょうだい!

マニュエル走り去る。



午後のロビー。マニュエルがポリーの絵のモデルになっている。

マニュエル ポリー。終わりまだ。私疲れた。

ポリー いいとこだからもうちょっとだけね。

マニュエル ケ?

ポリー Quiero ascender para dormir.

マニュエル いえ英語で言ってください。役立つです。学びます。

ポリー これが終わったら上に行くわ。

マニュエル ケ?

ポリー (階上を指差し)上に… 行って…

マニュエル はい。簡単。

ポリー 仮眠してくるの。

マニュエル それ難しい。

ポリー シエスタよ。

マニュエル シエスタ… ひるね?

ポリー そう。

マニュエル あー! スペイン語と同じね。

ポリー オライリーさんの工事の人が来たら起こしてちょうだい。

マニュエル おっかないーの人が来たら?(不安気になる)

ポリー いいマニュエル、よく聞いて。職人さんが来るの。セニョール・オライリーのところの人たち。

マニュエル 人たちさんが来る。

ポリー そうしたら、必ず起こしに来てちょうだいね。Despierteme。

マニュエル わかった、人たちさん来たら… vendre arriba para desperatertle en su cuarto。

ポリー Antes que ellos comienzan a trabajar aqui, si?

マニュエル Comprendo, comprendo。

ポリー 終わりにしましょう。

ポリーはスケッチを終え階上に去る。マニュエルはポーズをやめる。カウンターに入り、新しい役割を嬉しそうにはたし始める。大様にベルを鳴らす。

マニュエル マニュエール! (鳴っていない電話を取り)こちらマニュエル・タワーズ。お元気ですか。私は元気です。さようなら。(配達人のベニヨンが入ってくるのを見て受話器を置く。ベニヨンは大きな人形の置物を抱えている)どうもこんにちは。いい天気です。お元気ですか?

ベニヨン (配達票を見ながら)ここは16番?

マニュエル (宿泊帳をめくり)16番。はい。でも食べるのなし。

ベニヨン あん?

マニュエル 16空いてます。だけどこれはだめ。(食事の手まね)

ベニヨン (床を指差し)ここは、16番地か?

マニュエル いえ、いえこれ、ロビー。16は2階、右側です。

ベニヨン ここの係りはどうした?

マニュエル いえここではまだかかりません。料金は寝たあとです。

ベニヨン あんたのボスはどこにいる?

マニュエル ボスは… あ。えへん。私ボス。

ベニヨン 違うだろ、本物のボスだよ。

マニュエル ケ?

ベニヨン だから、えー、あんたんとこの最高の権力者。

マニュエル …マドリッドです。

ベニヨン もういい、ここにサインしてくれ。

マニュエル (サインしながら)はいはい… で、16番ね?

ベニヨン なに?

マニュエル 16に泊まるんでしょ?

ベニヨン いいか、俺は泊まりたくなんかない。じゃこれよろしくな。(床の人形を指して立ち去ろうとする)

マニュエル よろしくって? これ16に泊まりたいの?

ベニヨン (出ていきながら)ああそうだ風呂つきの部屋にな、このバケツ頭。

マニュエル (後姿に)あなた頭おかしいです。まず部屋代払いなさい。(人形を抱え上げ)おかしな人です。16番?払わないなら、16番あげない。

マニュエル人形をカウンターの後ろに置く。電話が鳴り、マニュエルが出ると同時にオライリーの職人のラーフィ、ジョーンズ、カーが入ってくる。

マニュエル (電話に)はいフォルティ・タワーズ。こんにちはお元気ですか今日はいい天気です。 …いえいません。いえいえ今いませんのです。すみませんです。それではさようなら。(電話を切る。職人たちに)こんにちは皆さん。

ラーフィ や、こんちは。(アイルランド訛り)

マニュエル 皆さん人さんたちですね?

ラーフィ (顔をしかめる)あん?

マニュエル 皆さん人さんたち?

ラーフィ (詰めより)冗談のつもりか?

マニュエル え?

ラーフィ 喧嘩売ってるのか?

カー よせよせ、ここじゃまずい。

マニュエル でもオレリの人さんたちでしょう?

ジョーンズ うん?

マニュエル オレリの人さんでしょう?

ラーフィ (怒り)なんだよそりゃ?

マニュエル オレリ人さん。

ラーフィ いいかげんにしろよ。

マニュエル オレリさんどこ?

ジョーンズ どうしたんだよ?

カー 「オライリー」って言ってんじゃないか。

ラーフィ (ようやく理解して)あーあ!そうだよ、俺たちオレリの人さんたちだよ。(仲間に)フカシ芋みてえな野郎だ。

マニュエル わたし言ってくる、待ってください。(階上を指す。電話が鳴り、取る)あんたも待ってなさい。

マニュエル受話器を置き、階段をかけのぼりポリーの部屋のドアをノックする。答えはなく、マニュエルもう一度ノックする。ドアを開けて静かに部屋に入ると、ポリーがまだ熟睡している。

マニュエル ポリー… ポリー…

しかし熟睡しているポリーは目を覚まさない。マニュエルは自分で応対することにする。ロビーでは職人たちが準備をしている。電話が鳴っていて、マニュエルは駆け下りてきて出る。

マニュエル こんにちはフォルティ・タワーズ、お元気ですかいい天気です… あーまたあんたか。今いない言ったでしょう、すみませんてば。さようなら。(切る)もう! もう!

職人たちが図面を見ながら相談している。

マニュエル なにするか知ってる?

ジョーンズ ああ。これが食堂のドアだな?

マニュエル (うなずく) …なにするかちゃんと知ってるね?

ジョーンズ 難しいことはなさそうだ。ただこのドアをふさげばいいわけだろ。

また電話が鳴る。マニュエル出る。

マニュエル はいはいはい! …またあんた! もう! 今いないの! 何回でわかるの耳あんのあんた脳天アザラシ! よく聞けです、今、いないの! 聞きなさいです! (受話器をふりまわしまわりでバジルの声がしないことをわからせようとする)これでわかったですか? …ひゃっ。 (突然理解して恐怖に捕われ受話器を放り出す) …フォルティさん! すみませんっごめんなさいっあなたでした! …そう私ですフォルティさん。 …いえポリー今すごく忙しい。職人さん? ああ人さんの皆さんここにいます。 …(職人たちに威張って)あんたたちちゃんと働け。(電話に)はい。はい。ヒゲの人? (職人たちに)すみません、ヒゲの人どの人?

唯一ヒゲを生やしているラーフィがちょっと考えてから自分だという反応をする。

マニュエル (電話に) …はい、はい、ひん、お、らんたん。…はい、ちょっと待ってください。(受話器を机に置き、ラーフィを指して)「この下品汁垂れ流しオランウータン野郎」です。(お辞儀をする。ラーフィ殴る)

バジルの声 (受話器から)まったく素晴らしい。ご協力感謝する。



翌朝。よく晴れて気持ちのいい朝である。ホテルの外では鳥がさえずり、モグラが遊び、イタチが走りまわっている。ポリーはまだ部屋で熟睡している。やがて外に車が止まりバジルが降りてきて、外階段を軽やかに上りロビーに入ってくる。

バジル ポリー!

バジル、新しくついているはずのキッチンへのドアを開けようとする… ついていない。振り返って私室のドアがふさがれているかどうか見る。ふさがれていない。

バジル ポリー! ポリー!!

階段口に新しく取りつけられたドアを開けて階段を駆け登って行く、が途中で何かが違うと気づく。戻ってきて新しいドアを眺める。ふつふつと怒りが沸き起こっている。

バジル ポリー!! ポリーっ!!! マニュエルっ!!!

食堂に向かうが、かつてドアがあった場所はただの壁になっている。そのとき階段口のドアを開けたポリー、バジルがそれを発見し飛び退るのを見る。そっとドアを閉めようとするがバジルに見つかる。

バジル ポリー!! わたしのホテルに何をしたっ?一体なんてことをしてくれたっ?

ポリー なんのことです?

バジル、ポリーの耳をつかみ階段口のドアを指す。

バジル これだ!

ポリー あら素敵、いいドアですね。(バジルに食堂の壁まで耳を引っ張られていく)きゃっ!痛いです!(バジルの手を振りほどく)

バジル 食堂のドアはどうした? 何故なくなってる?

ポリー 知りません。

バジル 知らないだと? 留守を頼んであったはずだ!

ポリー 寝てしまってたんです。

バジル 寝てただと?

ポリー 私のせいじゃありません。

バジル 寝ていながら自分のせいじゃないってのか?

ポリー 起こしてくれなかったんです。

バジル 誰が起こしてくれなかった?

ポリー …いえ、私のせいですわ。

バジル マニュエールっ!!! こんなこったろうと思ったっ!!!

ポリー マニュエルを叱らないでください。

バジル なんだと?

ポリー 悪いのはマニュエルばかりとも限りません。

バジル なに?じゃ誰が悪いんだデニス・コンプトンかっ、この雑巾女!

ポリー でもオライリーさんを雇ったのはご自分じゃないですか?

間。バジルの目がぎらりと光る。

ポリー 私たち申し上げたはずです、そもそもそこから始まったんじゃないですか?

バジル …失礼だがどういうことかな?

ポリー ですからオライリーさんを雇ったのは…

バジル なーるほどっ! これはみんなわたしのせいだったのかっ! てっきり留守を任されていたお前か、起こさなかったマニュエルの落ち度だとばかり思い込んでいたんだがそうだったのかすべて悪いのはこのわたしだったのかっ! 何もかもこれですっかり明確だ! あーそうだ悪い子はお仕置きされなきゃいけないなそうだろっ? (自分のお尻を叩く)この、フォルティ! いけない子! もう、二度と、やっちゃだめっ! (自分の額を激しく叩く。よろめいて立ち直り)どうすればいいんだっ?シビルは昼には戻ってくるっ!

ポリー よく考えて…

バジル わたしはもう破滅だわからないかあっ!

ポリー (なだめようとする)落ち着いてくださいっ!

バジル お前も破滅だっ!! 我々みんなみんなこれでおしまいなんだあっ!!!

ポリー 取り乱してはいけませんっ!

バジル ほかにどうしろと言うんだあっ!!(泣き出す)

ポリー オライリーに電話するんです。オライリーが間違えたんですから、直させるんです! (聞いていないバジルを揺すぶって)しっかりしてください! (また揺すぶる)ほら、しっかりしてってば!

しかしバジルのパニックはひどくなる。ポリー少し考え、一歩後ろに下がり、バジルに平手打ちする。バジル殴り返そうとするがそこで平手打ちの効果に気がつく。

バジル もう一度っ!(ポリーやや遠慮しながら平手打ちをする) もっと強くっ!!(ポリー今度は力いっぱいひっぱたく)よしっ! オライリーに電話をする。(カウンターの中に走りこむが何かに蹴つまずいて倒れる)これはなんだっ?(人形を見せる)なんでこんなもんがここにあるんだっ?

ポリー 奥様のご注文です。オライリーに電話してください!

バジル あのゴルフバカ毒ヘビ毒コブラ毒トグロ女がぁぁっ! (人形をカウンターに叩きつけ首を締める)

ポリー (電話を両手でカウンターに叩きつけながら)オライリーに電話っ!!!

バジル あん?

ポリー 私がしましょうか?

バジル (人形を放し)いや、わたしがする。(ダイアルを回す)それより屋根がまだ無事にくっついてるかどうか見てこい。 (ポリー、バジルのスケッチを始める) …なにをしている?

ポリー 動かないで!

バジル そんなことしてる場合かっ!

ポリー そのまま!

バジル いいから朝食がどうなってるか見てこいっ! 行けえっ!

デッサンを素早く終えたポリー走り出ていく。

バジル (電話に愛想よく)ああこれはオライリーさん、お元気ですか? そうですかそれは何よりです、言い訳になるような妙な病気もせず? …ああこれは失礼、こちらはバジル・フォルティですご記憶におありでしょうか、あなたに仕事を頼んだ大馬鹿野郎です。さて、ご機嫌麗しくていらっしゃいますか? …ああ左様でそうですかそれは素晴らしい。さてわたしのところでの工事の件ですが… そうですねいつものように壁にふたつみっつ穴が開いてドアが一枚紛失してるようですね、しかし裁判沙汰にはならずにすむかもしれませんね。

マニュエル (陽気に)おはようございまーす!

バジル (マニュエルに) …おはようございます?

マニュエル おはようございます!

バジル (電話に)少々お待ち頂きたい。(カウンターから出てマニュエルに)おはようございます、とお言いだね?

マニュエル です。

バジル なるほど。さて、これからどうなさるおつもりかな?

マニュエル ケ?

バジル どう… する… つもりだ?

マニュエル 朝ごはんの準備をします。

バジル それは! それではどうぞお望みのままに。

マニュエル、食堂へ入ろうとするがドアがないことに気がつく。

マニュエル ドアはどこ?

バジル さあどこだろうねえ?

マニュエル ドアなくなった。(壁を指差し)ここにあったのに!

バジル どこにあったのかな? (マニュエルの襟首をつかみ壁のあちこちに叩きつける)ここかな? …ここかな? …それともここかなぁっ?

マニュエル崩れ落ちる。少佐が近づいてくる。

少佐 おはようフォルティ。

バジル おはようございます少佐。大変申し訳ございませんが、食堂のドアが一枚紛失したようでございまして。(足元のマニュエルに膝で蹴りを入れる)

少佐 そうだな確かにここにあったな。

バジル そうです。ほんの3分間も留守にしたわたしが馬鹿でした。

少佐 なに、こんなことはよくあることさ。しかしどこに行っちまったんだろうな? でも気にすることはない、そのうちふっと出てくるだろう。ところで新聞は届いているかな?

バジル いえまだです。マニュエルっ! お疲れのところお手数だが、今すぐ少佐をキッチンの方から食堂にご案内申し上げろ。

マニュエル …それ難しい。

バジル 少佐、お手数ですがマニュエルをキッチンの方から食堂に案内してやってくれませんか。

少佐 いいとも。さあこっちだよ、おいで。名前は? …マニュエル、こっちだよマニュエル。(マニュエルを連れていく)

バジル (電話に戻る) …よろしいですかオライリーさん。1時までに食堂のドアを元に戻して余計なドアを取ってください。いーえ、この件に関してもうこれ以上あんたの言い訳を聞く気はございません。もしこちらに20分以内においでになれないようでしたら、わたしがそちらに参上し人形の置物を鼻に突っこんでさしあげます。ではご機嫌よう。(大様に受話器を置く)


1時間後。ロビーでオライリーが食堂のドアの工事を始めようとしている。

オライリー すいませんねフォルティさん、だけどあたしんとこの職人は日曜日は休みってことになってるんです。

バジル じゃあ、あんたがやってどのくらいかかるんです?

オライリー 手っ取り早くやってみますよ。

バジル できるだけ手っ取り早く願いたいですね、妻があと4時間で戻ってくるんです!

ポリー (玄関から入ってきて)お茶をお入れしました。

バジル お茶だと?

ポリー 一杯どうぞ。

オライリー いいなあ!

バジル 茶なんて飲んでる場合か!

ポリー ビスケットはいかが?

オライリー おいしそうだねえ。

バジル よこしなさい。(ビスケットを取りあげる)いいから、さっさと取りかかってくれませんか。

オライリー 大丈夫ですよ旦那、これが(食堂のドアを指し)一時間と半。あそこ、(階段を指し)あれは簡単。ちょいちょいとペンキを塗ってまわる、ま小一時間。今が何時ですって?

バジル 8時50分。

オライリー そうですねえ、8時50分に2時間と半を足して… ええと、ま十分時間はありまさね。じゃビスケットをひとつ。

バジル 駄目だ、このドアが終わってからにしてくれ。これは下げてくれポリー。(オライリーからティーカップを取り上げながら)これもドアが終わってからだ。

ポリー、ティーカップとビスケットを下げに去る。

オライリー どうも旦那さんはものごとを気にしすぎだねえ。そんなふうだと50前に心臓麻痺で往っちゃいますわね、ポックリと。

バジル そう願いたいもんだ。

オライリー ありゃー、そんなこと言っちゃいけませんよ。

バジル 本当だ。ようやく平和になれる。

オライリー そりゃ旦那、病気だな。慈悲深い神様は人生は楽しむためにお与えくださるんです。

バジル まったくだ、家内は楽しんでる。苦しむのがわたしの役目だ。

オライリー いいですか、もし神様が人間を苦しませるおつもりなら、人間を苦しませるものもおつくりになってたはずです。

バジル おつくりじゃないか! 妻を見ろ! あと4時間で戻ってくる、10歩離れたところの人間を言葉ひとつで殺せるんだぞ! これが苦しまずにいられるか!

オライリー (冷静に)お忘れになっちゃいませんか、この世には自分よりつらい目にあってる人もいるもんですよ。

バジル ああそうか? 是非とも一度お会いして笑ってやってみたいもんだ。

オライリー 自分のことばかり考えていちゃいけませんよ。いいですかもし慈悲深い神様が…

バジル もしいらっしゃるともう一度でも言ったら、その神の御許に蹴りこむぞ。いいからさっさと…

ポリー (走ってきて)フォルティさん、奥様がお戻りです。

バジル なんだって?

ポリー そこにいらっしゃいます。

バジル なんてことだっ。

バジル、玄関に出て行きシビルがいるのを見る。シビルは車を降り、オライリーのトラックが止まっているのを見て、険しい表情で玄関に向かう。バジルはロビーに走って戻ってくる。

バジル 隠れろ! 早く! なんとか追い返すから早く! 

オライリー 隠れるってどこに?

バジル (バーを指し)そこに!

オライリーはバーに走りこむ。

ポリー フォルティさん!

バジル なんとか引き止めてみる… ああ神様! (外に出ていく)やあ、シビル!

シビル (冷たく)ただいま。

バジル ずいぶん早くゴルフが終わったんだね!

シビル まだ始めてなくてよ。

バジル どこに行くんだい?

シビル 階段をのぼるの。

バジル わっ、そんなことはしなくていいよ! こんないい天気じゃないか。ちょっと散歩に行こう。もう何年も行ってないじゃない? (シビルに押しのけられる)そうだシビル、忘れるところだった、信じられないことが起きてね。(シビルの先にまわりロビーに入る)ちょっとこれを見てくれ! (大げさにロビーの様子を示す)ほら! こんなことになって! スタッブスの仕業だ! だから言わんこっちゃない! まったく信頼できる職人だな! ちっ、ちっ、ちっ!

シビル …スタッブス?

バジル しようがないなまったく、ちっ!

シビル オライリーはどこにいるの、バジル?

バジル オライリー?

シビル そうオライリー。

バジル なんでまた? これを見ただけでオライリーだと決めつけるなんて。わたしが嘘をついているとでも? だから… どうしてオライリーだなんて?

シビル トラックが表に止まっててよ。

バジル そうだよ、オライリーは来てるよ! もちろん来てるとも! こんなスタッブスの仕業をやり直しに来てくれてるんだ。そうだそれが(熱心に)オライリーのトラックが表にある理由だ!!! …しかも日曜日に。これこそサービスってもんじゃないか?

シビル そのとおりね。

バジル …そう思う?

シビル ええ。だけどもしスタッブスさんがこんなことをしたのなら本人を呼んだ方がいいんじゃなくて?

バジル そうだね、でもそれとオライリーが来てることとは別だよ、なにしろすぐに直してほしかったから。

シビル スタッブスさんならただで直してくれるのにオライリーさんを呼ぶことないじゃない。スタッブスさんに電話しましょう。

バジル 日曜日は休みじゃないかな。

シビル じゃあ自宅にかけるわ。

バジル、突然戦争の傷が痛み出し膝を押さえる。

バジル あーっ! うーっ! 今朝から古傷が痛んでっ! でも心配はいらないからね。ところでね、もう電話はしたけどスタッブスはいなかったよ。

シビル いつ電話したの?

バジル ええと… 今朝一番に。オライリーの前にね。

シビル ちょっと早すぎじゃない? 日曜日の朝に?

バジル それからついさっき5分ほど前にもう一度かけた、お戻りになる前にね、でもまだいなかったよ。あーっ!(足を押さえる。電話が鳴り、出る)あーはい、フォルティ・タワーズです… どなたです? …ああなるほど。そうですね、家内と直接お話しくださった方がいいですね。(シビルに受話器を渡し、重要なことのように)えー、スタッブスさんのとこの人だ。

シビル (不審気に受話器を受け取る)もしもし、シビル・フォルティですが? はいそうです。 …ええ、もうめちゃくちゃになってます。どうか早く直しに来ていただけないでしょうか? (バジルに)ちょっと代わってて下さる?

にっこりと微笑みバジルに受話器を渡し、シビルは私室に行く。そこではポリーが鼻をつまみ声を変えて電話に話している。

ポリー そういうわけですので、向こう3週間はちょっと無理ですね。ですからもしそんなにお急ぎでしたらほかを当たってみては、たとえばほらあのなんでしたっけ名前は?

シビル オライリーかしら?

ポリーびっくりして飛びあがる。シビル受話器を取りあげる。

バジルの声 (受話器から)うまいぞよくやったポリー! しかし今どこからかけてるんだ?

シビル ここよ、今私のいるとこ。(受話器を置く)

ポリー 奥様、私にも責任があるんです。

シビル いいえ、なくてよ。

ポリー お話申しあげておくべきでした。 

二人ロビーに戻る。バジルが受話器に叫んでいる。

バジル 一体誰だこんなスタッブスの真似なんてたちの悪い悪戯をしてるのはっ? ふざけたマネはよせ! こちとら忙しいんだっ! (受話器を叩きつける。シビルに)まったく信じられないことをする人間がいるもんだね?

シビル このことは一生後悔させてあげるわよ。

バジル そうか。でもスタッブスもちょっとは悪いんで…

シビル バジルっっ!!!

バジル はいっ。

シビル いいかげんにしてちょうだいっ!!  ごまかすのはやめなさいっ!! 情けないったらありゃしないっ!!!

バジル まったくですっ。

シビル そんな小細工で私がだませるとでも思ったのっ? こんないいかげんな工事が本物のプロの職人さんの仕事だと私が信じるとでも?

バジル …いや、実はあんまり。

シビル ああなんであなたを信用なんてしたのかしら? ああなんであなたに任せきりにしちゃったのかしら? こうなることはわかりきってたはずなのにっ!!

バジル …誰にでも間違いはあるよ。

シビル (バジルの手を力いっぱい叩く)もうあなたには死ぬほどうんざりよっ!! まったく頭悪いわねっ!! 本当に、芯から頭悪いんだからっ!!! 今年オライリーを3回雇って3回とも大失敗だったじゃないっ!! あの壁なんかまだ終わっちゃいないのよっ! 去年の11月に洗濯機を頼んだときには2週間水なんて全然出なかったじゃないのっ!!!

バジル (言い聞かせるように)だってオライリーは配管工じゃないだろう。

シビル ならなんでやらせたのよっ? オライリーは安いからでしょ?

バジル ただ料金が安いだけの職人じゃないよ。

シビル ならなんなのっ?

バジル 料金が… わりと安めの…

シビル 料金がわりと安いのはあいつが全然使えないからよっ! (バジルの脛を蹴る)

バジル (片足で飛び回りながら)なあシビル、それはちょっと大げさだよ。たしかに最高というわけじゃないけど…

シビル 最高というわけじゃないですってっ!?!? あいつなんか動物園送りよっ!!! (バジルのもう片方の脛を蹴る)

バジル (苦しそうに)ねえ、ちょっとは同情心を持ちあわせてみたらどうかな?

バーで茶を飲んでいたオライリー、ロビーに出てくる。

シビル あいつなんかうわ滑りのうわの空の嘘つきの鬱陶しいアイルランドの薄ら馬鹿よっ!!!

バジル やあオライリーさん、なんて面白い! 今ちょうどお噂をしてたところです、それと別のアイルランド人の職人さんのことをね。以前使っていたんですが、いやはやあいつのひどかったことったらっ!

シビル あなたのことよ、オライリーさん。

バジル …あれそうだったのか? わたしはてっきり… (なだめるように手をシビルの腕にかけるがひっぱたかれる)

オライリー (アイルランド的に優しく)奥さん、どうかひとつ聞いてくださいな。

シビル (オライリーに向かい)聞いているわよ。

オライリー (陽気に)さてさて、あたしがなんかしでかしましたかね? 

シビル (指さしながら)あれ、と、あれ。

オライリー たいしたことありませんわ。あたしがすぐに直します。

シビル …たいしたことないですって?

オライリー 天才職人、それはあたしのことです。

シビル …あたくしが冗談でこんなこと言ってるとお思いなのね?

バジル (オライリーではなく自分に言い聞かせる)ああ、そこで笑うな。

シビル …なにがおかしいのかしらオライリーさん?

オライリー 実を言うとね、奥さんみたいなはっきりした人あたし好きなんだわ。

シビル あらそうなの? こういうのがお好きなの?

オライリー ええ大好きでして。

シビル それはよかったわ。(ゴルフ用の傘を抜きだす)

バジル よせシビル! そこまでだ!

シビル、バジルを傘で殴る。向き直り、怯えるオライリーも殴る。オライリー後ずさりする。

シビル ほら、どうなの? 笑ってみなさいよ!

シビルさらにオライリーを傘で殴る。オライリーうずくまり、うめきながら攻撃に耐える。やがてシビル傘を下ろし、オライリーを見下ろして脇に立つ。

シビル オライリー、湿地の沼の底の逆さナマズだってあんたよりは利口よ。首なしで駈けずり回るニワトリだってあんたよりよっぽどマシよ。とっとと片づけて出てってちょうだい。あんたたちまたここに来たら承知しないわよ。(電話を取りダイアルを回す)それではちょっと失礼するわ、本物の職人さんを手配しますからね。(電話に)スタッブスさん? あたくしシビル・フォルティです。お休みのところ大変申し訳ないのですけど、ちょっといくつか見てもらいたいドアがありまして。いつごろ来ていただけるかしら? …明日の朝9時? もちろんかまいません、お待ちしてます。どうもありがとうございます、それではごめんください。(電話を切る。古傷が痛む振りをしようとしているバジルに)あたくしこれからオードリーのところに行きます。明日の朝まで戻りませんから。(ゴルフシューズを取りあげ、人形を見る)ねえ、バジル?

バジル なんだい?

シビル なんでこんなものがここにあるの?

バジル 庭に置くんだ、かわいいだろう?

シビル それなら庭に置いた方がいいんじゃないかしら?

バジル そうだねいい考えだ!

シビル そうね… でもやっぱりここに置いててちょうだい。ここで働いてもらいましょう。安くあがるし、それに間違いなくあなたより使えるでしょうから。(きびすを返し外に出ていく)

バジル (後姿に)では楽しんでおいで。地雷を踏んづけたりするんじゃないよ。(つぶやく)この毒コビトカバっ。(オライリーが帰ろうとするのを見て)…おい、どこに行く?

オライリー えーと、あたしゃ…

バジル いいから道具をもとどおりにしてもう一度始めてもらえませんかね?

オライリー しかし奥さんがおっしゃったところによると、あたしはもう…

バジル あんなたわ言を真面目に取るつもりじゃないでしょうね?

オライリー でもそうした方がいいんじゃないかと。

バジル そうした方がいいだって? あんたそれでも男かオライリー? あいつにあんなふうにへらず口叩かせるつもりか?

オライリー 実際お叩きになりましたな。

バジル いーや叩いてない。自分ではそのつもりかもしれない、しかし我々で目にもの見せてやろうじゃないか。あそこのドアを元に戻してあれを取るだけじゃない、あそこをふさいでから新しいドアをあそこにつけるんだ。いいかオライリー、今までで一番いい仕事をしてみせろ。

オライリーはあまり嬉しくなさそうである。


翌朝。人形がまだカウンターの上にある。ロビーの工事はすべて済んでいる。食堂のドアは元に戻り、階段口のドアは取り去られ、キッチンに通じる新しいドアが取りつけられており、私室のドアがあったところは壁になっていて、みなペンキ塗りまで済ませてある。マニュエルが玄関口に立ち、外を見張っている。

バジル まだかマニュエル?

マニュエル ケ? いやまだ。

少佐 (階段を下りてきて)おはようフォルティ。

バジル おはようございます。新聞が届いてますよ。

少佐 おうよかった。

バジル なにかお気づきになりませんか?

少佐 またストライキだな!

バジル …いいんです。

ポリー (食堂のドアのガラスを磨きながら)少佐、おはようございます。

少佐 おはよう、えーと… (ポリーを見つめる)

ポリー …いいんです。

少佐 おう、そうか。(ドアに気づき)ああ見つけたのか! そう言っただろう? (ポリーに)昨日なくしたんだよ。(食堂に入る)

マニュエル フォルティさん、来た! 来たです!

バジル よし、急げ!

バジル、カウンターの上にテープレコーダーを置きスイッチを入れる。「こんぺい糖の踊り」が流れる。バジルはキッチンに、マニュエルとポリーは食堂に隠れる。シビルが入ってきて、スイッチを切り、そしてロビーの仕上がりに気づき、食堂のドアに近寄って眺める。

バジル (キッチンのドアから一瞬顔を出し)やあ、おはよう!

シビルが振り返るとバジルはもう引っこんでいる。キッチンのドアまで行き中を覗きこむと、楽しげなバジルが今度は食堂のドアから顔を見せる。

バジル ゆっくり楽しんできたかい? (スタッブスが入ってくるのを見て)これはスタッブスさん! 家内はこちらです。(オフィスに去る)

スタッブス おはようございます奥さん。

シビル (気まずそうに)どうもスタッブスさん、なんて言ったらいいんでしょう。申し訳ありません。夫がちょっと困ったことをしてくれたようで… これが初めてじゃないですけど。実は工事をお願いするつもりだったんですが…

スタッブス はい。

シビル でも昨夜留守にしている間にすべて済んでしまったようですわ…

バジル (オフィスから出てきて)うまく行ってるかい?

スタッブス おや、それは。

シビル 昼までには全部壊れてしまうかもしれませんが…

バジル おやそうお思いで? それでは本物の職人さんにお伺いしてみよう! スタッブスさん、これがみなお昼までに壊れるとお思いですかな?

スタッブス いえそんなことは。

バジル どうだい。スタッブスさんはそちらのお見立てには賛成しないようだよ。

スタッブス (眺めて) …これはとてもいい仕事ですね。

バジル ほらあれを聞いたかい? とってもいい仕事だって。

シビル ふうん?

バジル 我々どちらも過ちを認めるのは好きじゃないよね? ことにわたしはそうだね。(スタッブスに)そしてあそこにドアを取りつけてここのをふさいだんです。

スタッブス (キッチンのドアで)ここは何を使いました? RSJですか?

バジル ツー・バイ・フォーです。(シビルに)悪くないだろう? おまけに安くあがる!

スタッブス いえ、横木のところです。RSJをお使いになりましたか? 鉄の枠のことですが? それともセメントで?

バジル …いえ、木製の枠です。

スタッブス でもここは建物の支柱ですよ!

シビル なんですって?

バジル そのとおり。それではスタッブスさん、わざわざお越しくださってどうもあり…

シビル ちょっと待って。そこの強度が足りないっていうの?

スタッブス 支柱なんですから。いつ壊れるかわかりませんよ。

シビル 壊れる?

スタッブス そうです。神様、2階にご加護を! (キッチンのドアを閉める)いいですか、支えのジャッキを取ってきますからそれまでこのドアは閉めておいてください。客が上に入る前になんとかしなきゃ… 間に合えばいいんだがわからんな… (電話に急ぐ)

シビル バジルっ!!(バジルは消えている。玄関に走る)バジルっ!!! どこに行くのっ!!!

バジルは人形を横抱きにしてホテルから大股で遠ざかっている。

バジル これからオライリーさんに会いに行くんだよ。それからたぶんちょっとカナダに寄ってくる。